あのドクターの素顔 分野 消化器外科
2014年07月17日

若井俊文 先生(2014年7月17日)

新潟大学 大学院消化器・一般外科学分野 教授

(平成26年5月28日インタビュー)

教授室入り口には、若手外科医とのダンディーなお姿、医学部運動会で学生さんたちとの楽しそうなお姿など、若井教授の様々なお顔がうかがえる写真が並んでいるのが印象的。

医学生にも研修医にも人気の若井教授の素顔に迫るインタビュー!

とても素敵で印象的なお写真ですね。(下の写真)

若井:あれは、サッカー日本代表選手の勝負服ポスターを意識したんです。同じような写真を撮りたいから若手(外科医)に黒のスーツ着てくるように言って記念撮影したの(笑)。ちなみにこの写真、僕はサッカー全日本代表チームのオフィシャルスーツと同モデルで一式揃えています(笑)。

若手教室員とサッカー日本代表スーツ姿(若井教授:前列中央)

サッカー日本代表に注目されているのでしょうか。サッカーはお好きですか。

若井:サッカー観戦は好きです。外科もサッカーも同じところがあるから。例えば、サッカーは監督の戦術次第でチームが強くなったり、弱くなったりする。野球はどちらかというとエースピッチャーがいて、強打者がいれば、そのチームはある程度勝つこともあるけれど…。手術も同じ。際だった個人プレーができる人がいても、それでは組織としては長くは続かない。一日に4件並列で手術だったら、一人だけ有能な医師がいても駄目。4つ同時の手術を一人で行うことは出来ない。だから外科もサッカーと同じで、そこは戦略とチームワークが大切なのです。

3歳の頃から夢は外科医!

医師になられた理由やいきさつをお聞かせください

若井:母親が、小千谷総合病院で産婦人科の婦長をやっていた関係と、身内に障害をもっている方がいたので、3歳くらいからもう外科医になろうと思っていましたね。あとは、高校、大学の頃よくボランティアをやっていて、大学は山梨だったのですが、山梨は海がない所なので、みんなでボランティアをして、資金を募って障害者の人達を静岡の海まで連れて行ったり…学生時代にボランティア活動を積極的にやっていました。

消化器外科を選ばれたのはどうしてでしょうか

若井:幼い頃は整形外科のイメージでした。でも、大学でいろいろな事を勉強して実質臓器、要するに肝不全、呼吸不全、心不全等…そういった臓器不全状態にある悪い状態を180度変えられるのは外科的手技かなと思って…。それで外科医を選んで、更に腹部の方は、肝心要な臓器を扱う肝臓外科医を目指しました。肝臓はいろいろな機能があるので、そこに惹かれました。

研修医時代のお話をお聞かせください

若井:研修医時代はとにかく朝が早かったです。10人くらい同級生がいたのですが、僕達、よく「ニワトリ」って言われていました(笑)。でも、朝から夜までずっと常に一緒にいるので 結束力が強くて…、今の若い人達より断然強い気がしますね。

今、研修医制度が始まって10年くらいになりますが、先生の頃と比べて今の研修医の方達について何か思うところはありますか

若井:いっぱいある…(笑)。一番思うのは、僕なんかは3歳から外科医になりたいと思っていたのに、2年間違う事をやるわけじゃないですか。それは確実に時間の無駄だなあと思っています…。学生の講義でも言うのですが、日本とアメリカの医学教育ではいろいろ違いはありますが、その中で一番制度的にどうにもならない事が、日本には落第制度はあるけれども、飛び級制度はないということ。アメリカの国際学会に行くと16歳でハーバード大学医学部を卒業して外科研修を実践して、32歳位で教授になっている人達もいる…。それは日本の制度では無理だよね。2年間の臨床研修後、外科に入ってきても、そこからまたさらに大学院に行くと4年かかり、その後、臨床医となるための実地訓練を…となるとあまりにも歳をとり過ぎるので、そこは制度としてどうにかするべきだと思っています。

医学大運動会(若井教授:前列右から2番目)

医師を目指す子供たちのために!

お子さまお二人とも将来医師になりたいとおっしゃっていると伺いましたが、小学生のお子さまも医師を目指したいと興味をもたれるのは、ご家族でそういったお話をされているからでしょうか。どういったお話をされているのでしょうか

若井:そうですね…。たとえば子供の行っている小学校の行事で、「二分の一成人式」(学校で10才のお祝いをする行事)の際に若手の医師と一緒に行って「外科の手術って…」「外科ってこんな感じよ」「医学部に行くにはどんなことをやったら良いのか、どんな仕事なのか」というような話を子供達にしてくる。これは勝手に殴り込み…じゃないけれど直接校長先生のところに行って「こんな授業をさせてください!」って始めたこと。それで毎年行くようになって(笑)。毎回子供達と話すと医師になりたい子が大勢いるから、これからも若手医師に引き継いで他の小学校にも行ったりして続けていけたらと思っています。

〈小学校の子供達から若井教授に送られたお手紙を拝見させていただきましたが、「医師を目指します!そのために一生懸命勉強します!」というような将来医師になりたい!という子供達の想いがたくさん綴られていました〉

髪を自分で切り、携帯も持たない忙しい日々

教授回診(若井教授:右端)

ご趣味は、テニス、スキー、スキューバダイビング、柔道、剣道、空手と伺いました。スポーツがお好きだと思いますが、ご家族でもお休みの日に一緒にされたりするのでしょうか。

若井:今、柔道部の顧問はしているけれど…、他のスポーツは学生の頃です。学生時代はテニスやスキーをしたり、あとスキューバダイビングで20カ国くらい行ったりもしたけれど、医者になってからは忙しくて…家族ではなかなか行けない…。でも、去年教授に就任してすぐに、これからますます行けなくなると思い、家族で夏休みにハワイに行って…子供達と手をつないでシュノーケリングをして、ワイキキビーチを満喫しました。子供が小さい頃は、野沢温泉や苗場にスキーに行くこともありました。でも最近、娘はフィギュアスケートにはまって、スケートリンクに行くようになっちゃって…今年は結局スキーには行けなかったけれど。あとは、まだ時間があった頃、たまに日曜日の朝早く家族でテニスをやっていました。妻、家族には心から感謝しています。

それでは、休みの日はご家族で過ごされているのでしょうか。

若井:いやぁ、それがね、休みの日、朝はそうやって過ごす事もあるけれど…、でもその後すぐにほとんど仕事をしているから…。だからちょっとしたエピソードがあって…教授の就任祝賀会が平成25年3月にあったのだけれど、実はそれまで時間なくずっと仕事ばかりしていたから10年間以上床屋に行かなかったんですよ。自分で髪を切って…。教授になるまで携帯電話も持たなかったし、(笑)。フィギュアスケートで金メダルを獲得した羽生結弦選手もそうじゃない。まだ18歳だけれど、自分の目標以外のことは一切断ち切って…。僕は就任祝賀会の時はさすがに美容院に行きましたけどね(笑)。それでその日の午前中に美容院へ行って、お昼ご飯を家で家族揃って食べていたら、小学生の娘に「パパ、なんで日曜日にいるの?病院には困っている患者さんがいるのだから、早く病院に行って仕事してきなさい」と言われてしまって…。考えてみたら10年以上、休みの日のお昼ご飯を自宅で家族揃って食べることが1回もなかったなぁ…と。

curiosity(好奇心)、energy(気力・行動力)、ambition(大志) 何より、目標!

学会賞受賞おめでとう!(若井教授:前列右から2番目)

若い人には大学院で研究することを勧めていらっしゃるとのことですが、その理由をお聞かせください。

若井:やっぱり、手術だけでは治せない病態があるということですね。今の医学で生命現象に関して解明されていることはおそらく5%位で、残り95%は解明されていない。結局、医学部で勉強している事は、その解っていること5%の勉強をしているだけのこと。だから解らないことの方が多い。それを少しでも解るようになるため、あと患者さんは困っている病態に直面して いるわけだからそれを解決するためには研究しかないということですね。

若手の外科医に伝えたいことはありますか

若井:外科というと、手術の大きさや手術件数が多いとか少ないとか言うけれども、それだけを言う外科医に絶対になるな!とよく言っています。何故かというと、不幸にも病気になった患者がいなければ成り立たないことだから…。医師になって「患者さんを治すと言っておきながら「手術件数を数多くしたい…」、「私はこんな大手術をした…」って言うのは、要するに不幸にも病気になった患者さんがいないと成り立たないことなのだから、それを肯定するのは許さない!それはお門違いでしょ!と若い人によく言っています。結構勘違いしている人達がいるから…。精神面でも若手の外科医を鍛えています!

医学生や研修医の皆さんにメッセージはありますでしょうか

若井:若い人によく言っているのが、Hospitality(おもてなしの心)。いろいろな人と接する時に相手のことを気遣って…、たとえば、それは医学部の中で目上の人と話す時、患者さんと話す時、全てに通じることだから…社会人にとってとても大事だということ。 そして、「できるだけ早く目標を設定しなさい」ということ。若者の3つの特性であるcuriosity(好奇心)、energy(気力、行動力)、ambition(大志)は歳と共に劣化するものだから、早く自分を高いところまで持っていくため、極力若いうちにいろいろなことにチャレンジして欲しい。医師になって早いうちに挑戦しないと、本当に目指すところにいけなくなってしまう。でも、その3つの特性があって、目標を設定したとしても一番大事なのは、どれだけ目標を理解しているかが重要なのです。本当の意味で理解しているのかどうかということ…。要するに、目標っていうと、ただなんとなく感じているではいけない。目標を達成した後に何があるのかを考えておかないと次のステップにはいけない。だから、目標を達成した後のことまで考えて行動しなければいけないということを常に念頭において欲しいと思います。 最後に我々、外科医は、臨床の現場、基礎研究で得られた知識を高尚なレベルで統合し、生命現象に対峙し、思考を重ねる努力を惜しまず、常に患者に寄り添い、生命を救うために全力を尽くす覚悟で診療を続けている。私は、このような高尚なレベルでの医学知識を有する医師を一人でも多く育成したい。我々、新潟大学外科教室は、次世代を担う医療人の育成に真剣に取り組んでおり、若手外科医を大切に育てていきたいと考えている。気概ある諸君、輝かしい未来のために、今こそ勇気を持って一歩前に踏み出すべきだ。

新潟大学外科学テキスト

(所属等は執筆時現在です。)