あのドクターの素顔 分野 泌尿器科
2016年06月01日

冨田善彦 先生

新潟大学大学院医歯学総合研究科 腎泌尿器病態学・分子腫瘍学分野 教授

噺家のような語り口で絶えず魅了する冨田先生。笑いの中にちりばめられたあふれんばかりの智見、珠玉のメッセージを皆様へお届けします。テーマは”適当な人生と教授”です。「適当」の真意と多様性とは?!

【適当】
[名・形動](スル)

  1. ある条件・目的・要求などに、うまくあてはまること。かなっていること。ふさわしいこと。また、そのさま。
  2. 程度などがほどよいこと。またそのさま。
  3. やり方などが、いいかげんであること。またそのさま。

A:医師になられたきっかけを教えてください。

なんとなくですね。以上、終わり(笑)

A:憧れた方はいませんでしたか?

冨田:ぜ~んぜん。何となくですね。職業選ぶなんてのも、なんとなくですから。

A:では泌尿器科を選んだ理由をお聞かせ下さい。

冨田:なんとなくですね(笑)全てなんとなくですね。人間なんてそんなものですよ。後で理由をつけるのはいくらでも出来る。適当ですね。非常に適当に医師になって、適当に泌尿器科医になって、適当に・・・。適当な人生ですねぇ。冗談いってる訳じゃなくて。適当です。

A:それでは、話題を変えて趣味の話でもプライベートなお話をお聞かせください。冨田先生は絵をお描きになると伺ったのですが?

冨田:描きますよ。最後に描いたの中学生の時!あっははは。適当でしょう?フェルメール並ですよ。僕の描いた絵は5枚くらいしかないんです。たぶん、現存してるのは1枚だけですね。それも中学校の先生にあげてしまったんですよ。

B:絵の作風もフェルメールみたいですか?

冨田:油絵はね。水彩はもっと描きますよ。極たまにね。3年に1回くらいかな。

C:3年に1回というと、どういうタイミングで描こうと思われるんですか?

冨田:よっぽど暇だったときかな。確か、10年前くらいにね、思い立ってキャンバス買ってきてね。油絵描こうと思ったんだな。下地を何で塗ろうかなって思って、暖かい色のせて、でも涼しい感じがいいかなぁとか思って、コバルトブルーでざぁ~っとベース塗ったんですよ。その後10年経ってるけど、一向に進んでないです。あっはっはっは。適当ですからね。

A:好きなお酒はなんですか?

冨田:何でも良いですね。適当ですからね。実に適当です。

C:ビールはこれが好きで、日本酒はこれが良いとか、なにかこだわりはありますか?

冨田:それ語り出したら、これ終わっちゃいますよ?(笑)これね、しばらく話してられますよ。お酒はまず、ワインから呑み始めてさ。僕に試飲させる人はかわいそうだよね。東京駅とかさ、「お客さん、お客さん、これ純米吟醸なんですけど、どうですか?」ってね。「じゃぁちょっともらおうかな。あぁ、もう!そんな注がなくていいっ。」なんて一口呑むでしょ?そうすると「これ速醸系だろ?精米は55%?50%?協会9号?13号?それとも独自の酵母使ってんの?」てさ。「生もとじゃねぇよね?かけ米とこれかえてんの?」とかって話をしてると相手がだんだんビビってくるんだよね。何事も研究してしまうんですよね。それでね、一定の結論に達するわけですよ。特集組んでいただければ、詳しく話しますよ(笑)

A:海外でこれはおいしかったと、もう一度食べたいものはありますか?

冨田:ないね。あはは。だって新潟の米うまいもん。お米あって鮭茶漬けあったらそれでいんじゃない?そうだなぁ。毎年学会でシカゴ行くんだけどさ、毎年だよ、毎年。本当に毎年だからね!シカゴピザって知ってる?知らないだろ~?すごい厚いんだよ。で、ほとんどチーズだからね。名物なんだけどさ、一口目がおいしいんだよ。一口目はね。でさ、これに合うビールがあってね、Blue Moonってビールがあるんだけどさ。これのドラフト旨いぞ~。これにオレンジ絞って飲むんだけどさ。これにシカゴピザ。一口目だけね(笑)あとね、ほら、フランスって食べ物がおいしいよね。アメリカは総じていけませんね。それで米国泌尿器科学会に行ったときに、でフランスの先生に聞いたんだよ。「What on the earth, do you usually eat, when you are in US?」てね。そしたらフフって笑って、「beef」って答えたんだ。それからだよね、アメリカの学会に参加するとAmerica Last Night Beef Steakとして必ず若い先生をステーキつれて行く様になったのは。大事なのはどこのステーキハウスに行くかって所なんだけど、泌尿器科学会の会場にいるボランティアスタッフのおばちゃんに訊いたんだよね。「この辺でうま~いビーフの店の話、聞いちゃったんだよね。でも正確な場所が分からないんだ。だから教えてくんない?どこのステーキハウスが一番旨いか。」ってさ。そしたら、おばちゃんすごい勢いで電話かけ始めてさ、「そうよ!空けときなさい!」とか言ってんの。でさ、翌日お礼に行くわけよ。「Mom!Splendid prime beef!It’s my big memory! Thank you very much!」っていうと「Nothing♪」てね。うまいよね~。そんな感じ。で、フランスの先生の言うとおり、アメリカのビーフは旨い!行く店決まってるんだけど、教えない(笑)でもあれは毎日食べるもんじゃないなぁ。1年に2、3回で良いですよ。さんまと白いご飯で充分ですよ。

A:牛肉は特にそうですね。新潟は牛肉をあまり食べない地域なので。

冨田:そう?そんなことねぇだろ~。新潟は牛いるでしょ?村上とか、佐渡とか。

A:私、加茂の生まれなんですが、肉じゃがの肉に限らず、ほとんどの肉は、豚です。

冨田:豚か?へぇ~、そうなの?驚き!B先生どこなの?

B:新潟市です。牛肉、食べます。

冨田:ほらみろ(笑)加茂と違うんだよ。Cさんは?

C:私は長岡ですが、肉じゃがの肉は牛肉です。

冨田:このいい加減な所が良いよね~。俺、気に入っちゃって、それだから新潟にいるんだよね。やっぱりさ、新潟の良いところはねぇ、排他的でないよね。いろいろな多様性を認めちゃうところ。もともと一つの城下町ではないし、天領だったり、あるいは村松藩だったり、長岡藩の殿様も三河から来たんだし。この多様な文化を認める「懐の深さ」がマッチしちゃってねぇ。だからずっといるんだよ。新潟に。でも12年間教授で山形行ってたけどね。やっぱりさぁ、盆地文化って雰囲気違うよね。新潟とか長岡とかさ、そんなに激しい文化的乖離はないのよ。これはもう良い悪いじゃなくて、盆地文化はちょっとちがうんだよなぁ。研修医諸君にはねぇ、多様性を許容する、非常に包容力のある新潟でぜひ活躍して欲しいですね。

C:冨田先生はどのような研修医時代を過ごされたのですか?

冨田:あんまり覚えてないですねぇ。でも、忙しかったですね。本当、忙しかった。長岡赤十字病院で研修してたんだけど、走り回ってましたね。あの当時でも700床くらいあったかなぁ。しかも泌尿器科医2人で。あの頃は、昔懐かしいポケベルってのがあってね。先日、学生さんにも話してたけど、ファーストコールはポケベルでしたよね。あれもちょっと格好良いですよね。どっか呑みに行っても、ピーなんてなるとね、「ちょっと電話して来なきゃ。」って言って席を立つ。これちょっと格好良いなと思ったんですが、3日で嫌になりましたねぇ。ピーピーうるさいんですよ(笑)そういえば皆で酒よく呑んでたねぇ。

C:では、新潟で研修するとここが良いなどのメリットはありますか?

冨田:東京みたいな人が多い都会も魅力的だし、行きたいところにいけばいい。新潟の冬は天気も悪いしね。でもね、だんだん歳とってくると、好みも変わってくるし生活スタイルも変わってくるんじゃないかと思う。そしたらまったく所縁のないところにIターンは難しいと思うんだよね。ご自身が新潟出身だったりね、大学が偶然にも新潟だったりしたら、そうゆうとこでキャリアパスをつんでいくのも一つの大きな選択肢であると思うよね。それは何かの出会いなのだから。「いい加減」な私も「いい加減」にやっているのだけれども。こうゆう言葉があってね。「There is a fine line between coincidence and fate. 」ようするに、偶然と運命は非常に細いラインしかない。境界がね。そうゆうことなのよ。新潟県外からこちらにこられた方も新潟大学入ったのも、偶然であり、運命であると。生まれてみたら新潟だったのも偶然であり、運命であると。だから「適当」にやっていただければいいんだけど。いろんな意味で適当に。

B:それでは最後に医学を志す方へのメッセージをお願いします。

冨田:まずは、本を読めだな。教科書もそうだけどインターネットだけじゃだめですね。話飛んじゃうけど、私はね、冷静に自分の職種を考えてみて、臨床できるし、手術出来るし、ロボット出来るし、da Vinci出来るし。バリバリの臨床医でも出来ると思いますよ。その方が待遇良いし。でもね、教授やっててね、ある日ふと気づいたんだよね。教授になって2、3年してから、自分の人生、ボランティアだなって。役目はね、良いお医者さんつくるんだよ。それ以上でも、それ以下でもない。医学の初期教育って一番大切な時期なんだよ。そこで、体幹に1本通るような根性論でね、どんどん教育を入れて、医者ちゅうもんはこうゆうもんだ!良い医者になれってね。きちんとメッセージとして言うことが大切なんだよ。それが社会全体における暗黙の了解としてあるわけだ。お医者さんってのはそういう具合に頑張ってくれるんだからってね。だから私が手術をするよりも、しっかりとしたお医者さんを育てて。まぁ、全員が全員無理だとしても、そのうち根性の座った医者が50人くらい出てくるとするだろ?10年頑張れば、500人になるわけだ。で、その人たちが良い手術をたくさんしてくれれば、そっちの方が良いわけだ。だからいるんだろうな。ここにって思う。みなさんその気があったら適当に「ボランティア~教育する医師~」、を目指して下さい。

(所属等は執筆時現在です。)