先輩医師インタビュー 分野 精神科
2019年10月24日

子どもたちの笑顔のため共に働く仲間を育てたい。

新潟大学医歯学総合病院 助教折目直樹 先生大阪府出身・平成20年 新潟大学医学部卒業

精神科医を目指したきっかけは何ですか。

医学部に進んだころは小児科志望でしたが、その後、興味は精神科へ。臨床研修先の病院で、発達障害の患者さんの診療や児童相談所の相談支援に携わる経験をさせていただいたことで、児童精神医学に進もうと決めました。在学中に、研究、臨床、教育の拠点となる「新潟大学こころの発達医学センター」ができ、優秀な先生方やスタッフが集まっていたことも後押しになりました。精神科、特に児童・思春期に関わる医療者が不足している中、身近に専門医が集っているのは、学ぶ者にとって恵まれた環境でしたから。

ご専門の児童精神医学について教えてください。

私が担当する児童・思春期外来は、主に15歳以下の児童・思春期の患者さんが対象で、大半は発達障害の患者さんです。代表的な発達障害は、対人関係の苦手さや非言語的なコミュニケーション行動の理解や表現が苦手という社会性の問題や、言葉の表現や理解、使い方などコミュニケーションの問題、物や行動へのこだわりなど想像力の問題、感覚刺激に対する過敏さや鈍感さなどを特徴とする自閉スペクトラム症、不注意症状や多動性、衝動性を特徴とする注意欠如・多動症(ADHD)などがありますが、知的能力障害や限局性学習症(学習障害)、愛着形成と情動制御の発達に問題のある反応性アタッチメント障害や脱抑制型対人交流障害など幅広く診療しています。発達障害で困っている患者さんの割合は高く、自閉スペクトラム症では100人に1人、ADHDでは100人に3-7人程度いると考えられています。

発達障害の他には、児童・思春期に発症しやすい双極性障害、いわゆる躁うつ病や統合失調症、不登校、うつ病、摂食障害の診療も担当しています。
子どもは大人と違って自分自身の症状をうまく言葉で説明できないことが多いので、診断に難渋することがしばしばあります。また、身体の病気を背景に精神症状が出現する場合もあるので、医療面接や行動観察だけでなく、血液検査、CTや脳波など頭部画像検査、心理検査、知能検査などを行い、広範な角度から五感を使って症状を把握しようと努めています。これは地道な作業ですが、原因を突きとめ、適切な介入ができた時には達成感を感じます。さらに、患者さんを支える養育者が精神的に行き詰っていることが少なくないため、必要に応じて養育者の診療を行うこともあります。

養育者の診療を行うケースはどのような場合に多いのでしょうか。

例えば、患者さんが虐待を受けているような場合では、養育者自身が虐待の被害者であったなど、いわゆる負の連鎖が認められることが多く見られます。こうした場合は、環境がよくなると症状が劇的に改善します。養育者自身が精神的に不調をきたしていると、当然患者さんの精神面にも影響します。そのため、養育者への適切な介入が、養育者だけでなく患者さんの安定につながることがしばしばあります。

また、自閉スペクトラム症やADHDなどの発達障害の養育者の中には、養育者自身が同様の発達特性を有するケースもよく見られます。そのようなケースでは、患者さんの発達特性や対応法の理解が十分できず、患者さんが生活しづらい一因になっていることもあります。そのため、養育者への介入と並行しながら、園、学校、地域が患者さんの発達特性や対応について知ることができるように情報共有を行うことも重要です。特に保育・教育機関で治療的教育、つまり療育を行うことが有効で、治療と並行して、保育者や教師、ソーシャルワーカーに対して疾患の特性を伝え、問題点を共有し、対策を講じることも精神科医の務めだと思っています。

現在のお仕事について教えてください。

新潟大学医歯学総合病院精神科では、児童・思春期外来および病棟業務を担当しています。臨床の他には、臨床実習中の学生指導、臨床実習前の学生の講義などを担当しています。大学病院には、全県から難治例や希少な症例などが集約されるので、経験を積み、スキルアップを図るには最適な環境です。

私自身は当院、新潟県立精神医療センターでは児童・青年期外来、病棟、知的障害者総合援護施設新潟県コロニーにいがた白岩の里診療所などに勤務し、児童精神医学を中心に臨床業務に従事する傍ら、大学院では薬物療法の副作用研究や治療ガイドライン作成に取り組んできており、実に幅広い経験を積むことができました。

これからの目標についてお話しいただけますか。

発達障害や発達障害を背景にした二次的な問題、たとえば不登校やうつ病などでお困りの患者さんが多い一方で、児童精神科医の数が不足しており、初診まで3ヶ月から6ヶ月ほどお待ちいただくことが少なくありません。発達障害は早期発見、早期療育が有効と言われています。少しでも患者さんや養育者のニーズに応えられるような診療体制を構築できるようになることが目標の一つです。そのためにも、児童精神医学の魅力ややりがいを学生や若手の医師に積極的にアピールし、少しでも児童精神科医を増やしていきたいと思っています。

子どもたちは適切な介入をすると必ず成長します。入院時は自信がなくて冴えない表情をしていた子どもたちが、退院時には自信に満ちて生き生きとした表情をしています。子ども達の成長に寄り添える喜びを共に味わえる仲間を少しでも増やしていきたいと思いますし、子どもたちの笑顔のために一緒に働く仲間を育てていきたいと思っています。

医師を目指す人へメッセージをお願いします。

現在は、発達障害の子どもが就労も含めて社会で居場所を見つけにくい状況です。精神科医としてそういう子どもたちの居場所づくりに関わっていきませんか。未来のある子どもたちがのびのびと成長するための手助けは、大きなやりがいにつながるはずです。

(所属等は執筆時現在です。)