先輩医師インタビュー 分野 耳鼻咽喉科
2019年03月28日

嚥下治療によって一人でも多くの人のQOL向上をかなえたい。

新潟大学医歯学総合病院馬場洋徳 先生鹿児島県出身・平成18年 川崎医科大学医学部卒業

現在のお仕事について教えてください。

大学卒業後、新潟県立がんセンター新潟病院での初期研修を経て、新潟大学医歯学総合病院、済生会川口総合病院、新潟市民病院などに勤務し、現在は、新潟大学医歯学総合病院の耳鼻咽喉・頭頸部外科で外来・手術・病棟を担当しています。この科は、耳鼻咽喉科と頭頸部外科領域のあらゆる疾患に、幅広く専門的な対応ができる診療体制をとっています。具体的には、耳や鼻疾患を始めとして、顔面・口腔・咽頭・喉頭・頸部疾患、めまい、顔面麻痺、その他、睡眠や発声、嚥下の障害などについて、県内の医院・病院から紹介された患者さんを新患外来で診察し、その後必要に応じて精密検査を施行し、診断・治療につなげていきます。

耳鼻咽喉科を選ばれたのはなぜですか。

最初は内科に進むつもりで初期研修をがんセンター新潟病院で受けました。研修が始まって間もなく食道がんの患者さんを担当し、食べたくても食べられずに弱っていく姿を目の当たりにしたことが、「食べる」ことに興味を持つきっかけになりました。併せて、社会では、高齢化や医療の進歩による誤嚥性肺炎の患者が増えて、嚥下治療への期待や要請が高まっていました。結果、個人的な関心と社会の要請が一致し、耳鼻咽喉科に進むことにしたんです。すると、需要に対して摂食嚥下障害に関わる耳鼻咽喉科医師が新潟県では少ないことがわかり、今はこの分野に力を入れています。

嚥下障害について教えてください。

口から食べ物を上手に飲み込めない、食道まで送り込めない状態を嚥下障害と言いますが、その原因は耳鼻咽喉の病気、神経の病気、脳血管の病気の後遺症、そして高齢化も含めた内科的な問題などです。治療は原因となる病気の治療やリハビリが中心になります。その中でも私は嚥下障害がなかなか回復しない、また症状改善が進まない場合に喉の機能改善手術、気道と食道の分離手術の適応を決めたり、手術を行ったりすることに力を入れています。嚥下障害の患者さんはADL(日常生活動作)を含め全身状態が様々なため、飲み込みを良くればいいというものではありません。手術の目的は、飲み込みをよくするリハビリのステップアップのための後押しであり、口から食べることで、生きる意欲や栄養状態がよくなることです。そして、全身的な機能を高めてほしいと願いを込めて手術に取り組んでいます。また嚥下障害については、他の診療科と連携しながら全身状態を診ていくこと、地域の病院や介護施設と関わり継続的な支援をしてくことが必要です。特に地域との関りは重要で、個人的なことではありますが、将来的には往診をするなど、もっと地域に密着した活動がしていけたらと思っています。

これからの目標についてお話しいただけますか。

耳鼻咽喉科の中でも「口から食べる」「ぐっすりと眠る」という人の基本的な欲求を叶えることに私は関わっており、当たり前のことが当たり前にできること、QOLの向上に欠かせない分野です。そういう耳鼻咽喉科の役割を患者さんにも医療従事者にも広く知っていただきたいですね。今、新潟市内で嚥下手術について講演活動を行っていますが、こうした機会をもっと増やして大学、地域の病院や医院とのつながりを作り、また、若い医師を育てて一緒に課題解決に関わっていきたいです。日々の治療の中で、「もう一度口からものを食べたい」という希望、嚥下治療への期待をひしひしと感じますし、検査機器や嚥下食なども進化しています。これからの医師としての時間をこの分野にかけて、地域に貢献していきたいと思います。

医師を目指す人へメッセージをお願いします。

私は新潟県出身ではありません。大学の同級生だった妻が新潟の出身だったことから、研修先に新潟県を選んだのが関わりの始まりです。暮らしてみると人は優しく温厚で、さらに、大学の先生や先輩、同期にも恵まれました。耳鼻咽喉科医のやりがいや果たすべき役割を知ることができたのは、こうした多くの人との出会いがあったから。そういう意味でも今後、恩返しを込めて人材育成に関わっていかなくては、と思っています。

いろいろな人と話し、広く関わっていくことでそれまで気づかなかった問題点が見えてくることが多くあります。その中で「自分ができることは何だろう」と自分自身を客観的に見ながら、そして考えていくとで、「これだ!」というものにたどり着けると思っています。私はそうでした。超高齢社会で必要なこと、新潟県で足りないことを一緒に解決できる仲間を待っています。

(所属等は執筆時現在です。)