あのドクターの素顔 分野 腎臓内科
2016年10月01日

成田一衛 先生

新潟大学大学院医歯学総合研究科 腎・膠原病内科 教授

長い足をこちらに向け、ゆったりとソファーでくつろぐ成田先生。耳に優しく届く周波数の声と独特のテンポで語られる皆様へのメッセージ。紳士的かつあふれでる優しさの中にある現実性。成田先生の素顔に迫ります!

教授室にて

職業は“目指す”のではなく“選択”した結果

小さい頃の夢を教えてください。

成田:単純に幼い頃は飛行機のパイロットとか、トラックの運転手とか、大きな乗り物に憧れましたね。あぁ、野球選手というのもありましたよ。小さい頃は野球をやっていたんです。スポーツは大好きです。高校生になってからはバレー部に入りました。中学3年生のときにミュンヘンオリンピックで日本男子が初めて金メダルを取ったんです。準決勝、決勝とすごい試合だったんですよ。それに感動してしまってね。ちょうど身長が伸びた時期でしたし、やってみてもいいかなぁと思って。入ってみたら大変でしたけどね(笑)進学校だから、進級するにつれて人数が減っていくんですよ。6人制のバレーボールに2人しかいないなんてこともありました。正直に言えば、辞めるに辞められなくなったのですが、3年間続けました。最後までやって良かったと思っています。その頃の仲間とは、今も仲が良くて、時々会ったりしていますよ。

それでは医師を目指した理由は何ですか?

成田:僕の場合はこれといったきっかけはないんです。職業を考える時は色々な条件を考えますよね。収入とか、社会へ貢献とか、やりがいとか。あと退職後どうするかとか(笑)。そこまで考えなくても良いけれど、あらゆる要素を考えて自分の希望と合うかどうか。医師は候補の一つだったんです。選択肢は他にありました。数学的なことが好きなので、理系とは考えていたのですが。具体的に言えば建築とか、物理、生物学などの研究も考えていました。自分で設計した物が世の中に残ったり、人に貢献出来る職業って良いじゃないですか。それで医学部に合格したので、医師になりました。

平成26年度医学部運動会

診療科も取捨選択~自分の能力と診療の可能生~

腎臓内科を選んだのもたくさんの選択肢の中からですか?

成田:そうですね。研修医の時も職業の時と同じで絞っていって腎臓内科を選びました。選択肢としては、整形外科、泌尿器科なども候補としてありました。僕が腎臓内科を選んだ理由の一つは、腎炎と腎不全の患者さんを両方診れるところなんです。病態の最初から最後までを自分の能力の内でマネジメント出来るというのは大きな魅力だと思います。腎生検をしてから治療をしてきたけれど、やはり効果がなく、腎不全になり、透析まで。他の科でも同じことがいえるのかも知れませんが、当時の僕が体験出来たのが、腎臓内科だったんです。腎臓内科も手術が出来るんですよ。腹膜透析とかシャント手術とかね。研修医時代に経験したのですが、外科的なことも自分に向いているなと思いました。

当時は多くの先生に大変お世話になりましたが、皆さん素晴らしい先生ばかりでした。自分の知識と技量と責任をもって治療をする。それでも治療効果がなくてお亡くなりになられる時もある。必ずしも全て治るわけではなく、むしろ最終的にはお亡くなりになる方が多いですからね。それでも最後まで責任を持って診療するでしょう?それがすごいなぁと思いましたよね。自分もいつかそうなれるのかなって正直思っていました。いつの間にか卒業して三十数年、治らない病気もたくさんありますし、まだまだわからない病気もたくさんあります。

男性からみた女性医師という職業~遺伝子学からみても女性はすごい!~

それでは次の質問に移ります。医師を選んだのは現実的なことを考慮してと伺いましたが、成田先生がもしも女性に生まれていたら、それでも医師を選びましたか?

成田:そうくると思ってなかったなぁ(笑)。ちょっと想像できないですね、、、。でも僕の周りの女性医師の皆様はすごく元気で、本当に活躍していらっしゃいますよ。腎臓内科は女性が非常に多いんです。病棟長も女性ですしね。パートタイマーで勤務されていたり、フルタイムで勤務されていたり、働き方も多岐にわたります。その多様性を認めていくのが大事なことだと思っています。女性には活躍していただかないと困りますしね。もちろん男性も協力していかなければなりません。うちの奥さんも血液内科の医師をしておりますが、良くやってますよ。個人の努力は男性よりも遙かに大変ですしね。僕らは仕事だからと遅くなっても許してもらえることはありますが、女性の場合はそうはいかない。でもその中で生き抜いてきた人達はすごくたくましくて、学会でも現場でも活躍しています。本当に素晴らしいですよね。今はどの学会でも、大学でも、男女共同参画ですから。
実は今年の日本腎臓学会総会で男女共同参画の企画を僕が担当したんです。男女共同参画はすでに当たり前なので、逆に男女差をアカデミックに研究すべきという話にしたんです。今まで腎臓病学会では本気で議論されていないトピックでしたので、男女差をきちんと見直そうという企画にしたんです。現在100歳以上の方の9割は女性です。透析患者さんを見ても男性の2倍、女性の方が予後が良いんですよ。何故そうなのかは詳しく分かっておりません。色々な理由が考えられています。ホルモンとかX染色体とかね。遺伝子の数を知っていますか?Y染色体は100個くらいしかないんですよ。X染色体はその10倍、1000個くらいあるんです。極端にいえば、Y染色体なんてなくてもなんの支障もないので、女性は長生きするのかもしれません。同じ出血しても女性の方が絶対強いですしね。対して男性はちょっとなにか起きると危うい感じですよね。生き物として、女性は高級なのではないかと思います。

休日の過ごし方~お料理も結果がでれば面白い!~

休日の過ごし方を教えて下さい。

成田:僕は犬の散歩とか、料理作ったりしてますね。最近まで全くしなかったんですけどね。手をかければかけるほど美味しいのでしょうけれど、少しの工夫で結果がでる。意外に面白いなってこの歳になって初めて気付いたんです。
カレー作ったり、素麺茹でたりしてますよ。稲庭うどんとか、茹でるの結構好きですね。最近は、カレーのいろんなキットが売っていて、本格的なカレーが自宅で作れるんです。ナンを焼いたりして美味しく出来ると嬉しいですよね。

成田家のわんちゃんは何犬ですか?

成田:ビーグル犬です。可愛いですよ。ちょっと頭悪いですけどね。躾が甘いのか、犬のくせに猫の様に独立してるというか。呼んでも、えさがもらえると分かると来る。忙しいとあんまり散歩に連れて行ってあげられないでしょう?そうすると外に行きたい!って感じでずーっと外見てますよ。それがまた、かわいいですけどね。

出会いを大切に~新潟から世界へ羽ばたこう~

今、新潟大学の学生数が増えてきていると思いますが、昔と変わったと思うところはありますか?

成田:みなさん、優秀で真面目です。昔に比べてカリキュラムが厳しくなっています。当時も留年する人はそれなりにいたかも知れないけど、今はサボってると留年しますから。僕らの時代はもう少し余裕があって、部活以外にもいろんなことが出来ました。夏休みも短いし、今の学生さんはずぅっと張り詰めた感じがしますね。だから6年間は楽しんで欲しいです。部活にも趣味にしても卒業してしまうと忙しくなるからね。でもね、思いっきり楽しむには、結構努力しないとだめですよね。何を一生懸命やるのかが大切ですが、何事も一生懸命楽しんで欲しいです。

最後に医学生や研修医の先生方にメッセージをお願いします。

成田:新潟で研修して欲しいですね。そして新潟から世界に向けて科学を発信して欲しいです。新潟でしか出来ないことはたくさんあると思います。腎不全医療もそうですし、腎臓に限らず新潟大学が誇れるものは多いですよ。でも必ずしも全員が新潟に残る必要はなく、可能ならば世界に羽ばたいて欲しいんです。アカデミアとしては卒業生が世界で活躍してくれると良いと思います。是非、新潟で学んだことを元に、世界で活躍して、大きな声で新潟大学医学部出身ですといってください。そして新潟に戻ってきて外で学んだことを後輩達に教えてあげてください。人の交流や移動は大切なことですからね。外に出たら戻ってきてくださいね(笑)
あともう一つは、人間関係を大切にして欲しいですね。実は医療というのはうまく行かないことの方が多いんですよ。高齢社会になってくると、自分の能力を超えた、あるいは医学の能力を超えた患者さんがたくさんいます。必ずしも勝てるわけではなく、負けることもあるでしょう。その中でいかに自分を納得させて進んでいけるかということが心理的にも大変になります。その中でうまくやっていくには、人間関係がすごく大切になります。チーム医療という点でもそうですが、医療者同士が助けあっていかないと立ちゆかなくなります。分野間、業種間に助け合う感覚がないと、自分自身が納得して進んで行けない。人間関係や出会いを大切にする。これが基本だと思いますね。一人じゃ解決出来ないことはたくさんあります。性差もそうですけど、それぞれの多様性を認め合って、良い関係を築いてください。

医学部運動会打ち上げにて

(所属等は執筆時現在です。)