先輩医師インタビュー 分野 産婦人科
2019年09月11日

婦人科の腫瘍専門医として女性の未来を守りたい

新潟大学医歯学総合病院工藤梨沙 先生新潟県出身・平成20年 新潟大学医学部卒業

現在のお仕事について教えてください。

上越総合病院での初期研修を経て、現在は、新潟大学医歯学総合病院で婦人科を主として診療しています。婦人科の三大悪性腫瘍といわれる子宮頸がん、子宮体がん、卵巣がんに対する手術を始め、外来、病棟業務を担当しています。子宮頸がん、子宮体がん、卵巣がんはいずれも日本人において罹患率が上がっており、特に子宮頸がんは若い人の罹患が増えているという問題点があります。日本では子宮頸がんの二次予防である子宮頸がん検診の受診率は低い上に、一次予防であるHPVワクチン接種は接種後に生じたとされる多様な症状の報道とそれに続く厚生労働省の積極的勧奨の一時中止の影響を受けて、現在も定期接種のワクチンに含まれているにも関わらず、接種率は低迷しています。当大学では、HPVワクチンの有効性の評価のための研究を国立研究開発法人 日本医療研究開発機構(AMED)から研究資金を獲得して行っていますが、私自身も若い人たちの未来のために何ができるかを考え、力を尽くしたいと思っています。

婦人科を選ばれたのはなぜですか。

生命の誕生に関われて「おめでとう」と言える科であることから産婦人科を選びました。産婦人科で研修を行う中で、女性の未来のために役立てることにやりがいを感じて、婦人科に進みました。外科手術に興味があり、同じ女性なので患者さんの苦痛を想像しやすいことも、その進路に影響があったかもしれません。母である患者さんを治して退院を迎えたとき、患者さんだけでなくお子さんやご主人、ご家族が喜んでくれた、その光景は本当にうれしくて、婦人科医になってよかったと思えた瞬間でした。

新潟大学医歯学総合病院の婦人科にはどんな特徴がありますか。

大学病院であるので臨床試験や治験に積極的に取り組み、最新の治療や手技を行っていますが、一番の特徴は、妊娠を継続しながらがんを根治する、妊娠中の広汎子宮頸部摘出術を全国で最も多く行っていることです。妊娠中においての抗がん剤治療は、将来に渡って体内曝露というデメリットを持ちうるので、手術による治療を行うというものです。群馬県や大阪府からも患者さんが来院されるほど貴重な手術です。

また、腹腔鏡手術のトレーニングシステムの一環として、2013年から当科の医師が新潟県内の病院に出向いて若手医師を教えています。地方では赴任環境によって、腹腔鏡手術の経験ができる・できないという差があったり、指導できる人や学べる場所も少なかったりするという問題があります。そこで、教える人を県内の病院に派遣し一緒に手術を行ったり、修練したい人に向けてセミナーやトレーニングを行ったりして、地域間各差をなくしていこうという取り組みです。こちらは研修を希望する医師だけでなく、患者さんも県内どこの地域でも画一された治療を受けられるというメリットがあり、地方大学の成功例として全国の注目を集めています。こういう環境にいることで、私自身も刺激を受けますし、頑張ろうという気持ちになります。

これからの目標についてお話しいただけますか。

昨年博士号を取得し、今は、婦人科の腫瘍専門医を目指しています。小2、年長、2歳の3人の子どもを持つ母としては、患者さんを支えたいという気持ちと、もっと自分の家族と過ごしたいという気持ちがせめぎ合うこともありますが、幸い家族の理解と支えがあり、現在は仕事に集中できています。

この夏は長女の自由研究として家庭菜園づくりに挑戦し、短いながらも一緒に過ごす時間を作りました。そして一緒にいられなくても私を身近に感じてもらえるように、息抜きがてら趣味の手芸で子ども用の小物を作って持たせています。特別なことではなく、自分にできる範囲で、前向きに楽しくやっていこうと思っています。

医師を目指す人へメッセージをお願いします。

医師という仕事は働きながらも勉強し続けなればならない、大変な仕事です。しかし、それを上回る達成感や喜び、価値がある仕事だとも思っています。私はこれからも患者さんそれぞれにとって最善の治療を行い、一人でも多くの患者さんとご家族が「ここで治療を受けられてよかった」と思えるよう努力していきます。私たちと一緒に女性の未来を守る仕事をしませんか。

(所属等は執筆時現在です。)