先輩医師インタビュー 分野 消化器外科
2018年09月07日

最新の知見を学習し、共に学ぶ研修カリキュラムを始めました

糸魚川総合病院 外科部長澤田成朗 先生石川県出身・平成7年 富山医科薬科大学医学部卒業

現在のお仕事について教えてください。

消化器外科医として富山大学附属病院、千葉大学医学部附属病院などで勤務した後、2017年4月に糸魚川総合病院に赴任しました。当病院は糸魚川市唯一の総合病院で手術件数も比較的多く、また初期臨床研修に関わることもでき、自分にとってやりがいのある病院だと思い赴任を決めました。ただ初期研修医に対する接し方はこれまで同様自分自身がかつて研修医として経験したことを基本に、外科医のやりがいや喜びを伝えたいと考えていました。「我々外科医の背中を見て育ってもらいたい」と思っていました。

先生のそのお考えと状況は違いましたか。

これまでの基幹型初期研修施設とは全く違う研修医のスタイルに面食らいました。外科医にとって手術前の朝の重要な時間帯に研修医必須のカリキュラムが週に最低3回予定されていたのです。朝から晩まで消化器外科医の普段通りの仕事を共にすることで外科医のやりがいを理解してもらうつもりでしたから。さらに研修医は定期的にERからの呼び出しがあり、土日には教育レクチャーなどのイベントが催され、忙しいんです。その理由は、当病院が総合診療マインドを持った各科専門医養成に力点を置いた研修を行っているから。確かに、研修医に人気があるのは「大都市に立地」「地方でも3次救急病院」「地方でも総合診療を強力に志向」する病院であり、地方中核病院である糸魚川総合病院が「総合診療を中心とした研修」を選択するのは正しい。ただ、定期・不定期を含めそこまで多くのプログラムを組む必要があるのか、もっと病棟や手術室で過ごす時間を長くすべきではないか、研修期間を通してERに関わり続けるカリキュラムでは診療科研修に集中できないのではないか――もやもやとした気持ちでした。9月までは。

9月に何があったのですか。

糸魚川総合病院が初期臨床研修に取り入れている沖縄研修です。沖縄県の8つの基幹型病院と19の協力型病院・施設が連携して行っている臨床研修病院群「群星(むりぶし)」の施設に、1年目の研修医とともに4日間参加しました。カリキュラムの理念にも指導医の先生方の考え方にも感銘を受けました。それまで断片的に考えていたことが線としてつながり、全体像が見えたと言えばいいでしょうか。群星名誉センター長宮城征四郎先生の言葉である「研修医に教えるのではなく、研修医と共に学ぶ」「背中を見て育つ研修医はいない、自身の知識と技術をしっかりと伝えなければならない」ことが、指導医としてやるべきことだと明確になりました。

具体的に何を行われたんですか。

沖縄研修では当病院の研修医は他に引けをとることなく積極的に発言し、実に頼もしかったんです。糸魚川総合病院の研修は確実に効果を上げていることがわかりました。と同時に、糸魚川に集う研修医は医者としての総合力を強くしたい、という研修医なのだと実感しました。更に、ある病院の外科でSurgical skill courseと称して外科手術手技に特化したカリキュラムを作成していることを知りました。そこで沖縄研修後、手術手技に加えて、30分間のミニレクチャーを週2回予定し、積極的に我々指導医が消化器外科医に必要な知識を教えること、さらにはそれらの習得を可視化することで達成感を得てもらう「Itoigawa Surgical Skill and Intelligence Course」を作成し昨年12月から実行しました。この方式を導入してまだ9カ月ですが、研修医は確実に力をつけてきています。さらにブラッシュアップしていこうと思っています。

先生が目指す研修とはどのようなものですか。

2年間の初期研修を診療科全体を見渡す場であると考えて、まず幅広い力をつけ、後期研修で専門を選べばいいし、そのまま総合臨床医の道を突き進んでもいい。それが糸魚川総合病院のスタイルです。研修医の志向にも時代の要請にもかなっています。そこに付け加えて、初めから外科志望の人には、初期研修のうちから手術や学会に積極的に参加してもらって、早い時期から専門を究められるように応援したいと思っています。

そのためには指導する側も努力しなければ。私たち指導医が臨床能力を高め、教育への情熱を持ち続けることも研修には必須です。”医師は一生研修医”という意識を持ち、学び続けていこうと思います。

後輩の医師へのメッセージをいただけますか。

研修については、今は病院によっては学生から参加できるイベントを開催するところもあり、またホームページでの情報発信も盛ん。日頃からアンテナを張ってそうした情報を幅広く入手するといいでしょう。また、輝ける医師となるには自分の能力を上げる事が必要で、それは大規模病院で研修すれば良いというわけではないと思います。医師としての地力をつける場所は他にもあるし、糸魚川総合病院は研修医の地力を上げるためのアイテムを充実させようと努力している病院の一つです。今、日本は高齢化の真っただ中にありますが、ここ糸魚川市は高齢率33%と全国平均を上回っています。たとえば、当病院で大腸ガン手術を受けた患者さんの半数以上が80歳以上でした。高齢者になればなるほど入念な術前術後の管理や合併症によるリスクへの対応が求められるため、そうしたノウハウやデータが蓄積されつつあります。都会に暮らすお子さんたちに、親御さんが糸魚川市でも手術が受けられ、術後も安心して任せられると言ってもらえるように取り組んでいます。いわばここは高齢者医療の先進地域。ここから高齢者医療の新しいモデルが発信できるようにしていきたいと思います。

(所属等は執筆時現在です。)