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Event Report

新潟県主催・イノベーター育成臨床研修コース

「地域医療をまちの力で動かす」公開講座を開催
新潟県主催「イノベーター育成臨床研修コース」公開講座「地域医療をまちの力で動かす」、会場はNINNO3(新潟市中央区)

「地域医療をまちの力で動かす」公開講座を開催

~住民とともにつくる地域医療を学ぶ~

新潟県が実施する「イノベーター育成臨床研修コース」の公開講座「地域医療をまちの力で動かす」が8月29日、新潟市中央区で開催されました。

講師を務めたのは、福井大学医学部地域プライマリケア講座教授で、「まちづくり系医師」として福井県高浜町を中心に活動する井階友貴(いかい・ともき)氏。会場とオンラインで、研修医や医師、看護師などの医療関係者に加え、医師を目指す高校生らも参加しました。高校生への公開講座の周知は今回初めて行われました。

講演では、高浜町でのさまざまな実践事例を交えながら、医療者だけでなく住民や行政など地域全体で医療や健康を支えていくための考え方が紹介されました。

地域を良くする「一歩」もイノベーション

講師の井階友貴氏
講師の井階友貴(いかい・ともき)氏

「イノベーター育成臨床研修コース」は、臨床研修中に課題解決力を身につける新潟県独自の研修コースです。目の前の困りごとを自分ごととして捉え、周囲を巻き込みながら持続的な変革を生み出せる医師の育成を目指しています。

公開講座は、同コースの具体的な内容や考え方を医学生だけでなく、指導医をはじめとする医療関係者にも広く知ってもらうことを目的に開催されました。

新潟県福祉保健部の中村洋心部長は、今回の講演について「イノベーションというと、すごいテクノロジーや尖ったものをイメージしがちですが、世の中の問題を解決する一歩につながるものは、広い意味でイノベーションだと考えています」と説明します。

医療を医療従事者だけで支えるのではなく、地域住民を巻き込み、みんなで地域を良くしていく環境をつくることも「大きなイノベーションの一つ」だといいます。

新潟県福祉保健部 中村洋心部長
新潟県福祉保健部の中村洋心部長

「つながり」と「楽しさ」が人を動かす

高浜町マスコットキャラクター「赤ふん坊や」
高浜町マスコットキャラクター「赤ふん坊や」が登場

講演で井階氏がまず取り上げたのが、人と人とのつながりを意味する「ソーシャル・キャピタル」です。

近年のヘルスケアは、その場所が「病院・施設」から「地域」へ、視点が「医療・介護」から「暮らし」へ、手段が「サービス」から「支え合い」へと広がっています。人との交流や地域とのつながりは、健康にも大きな影響を与えるといいます。

井階氏が高浜町で目指してきたのも、医療者主体の医療づくりから、住民主体の医療づくり、さらには地域全体で取り組むまちづくりへの転換です。

もう一つのキーワードが「楽しさ」です。

健康に関心のない人に、健康の大切さだけを訴えても行動につながるとは限りません。そこで活用するのが「行動経済学」の考え方です。人を強要するのではなく、「楽しそう」「面白そう」「おいしそう」といった直感に働きかけ、自然と望ましい行動につながる仕掛けをつくります。

講演では、高浜町で実践されてきた多彩な取り組みが紹介されました。井階氏自身もユーモアを交えながら語り、会場からたびたび笑いが起こりました。

答えを決めず、「何が問題か」から地域と考える

講演の様子

3つ目のポイントは「地域主体」です。

専門家が地域の課題と解決策を決めて住民に提示するのではなく、住民や行政、医療・介護の専門職などが対等な立場で参加し、「この地域では、そもそも何を解決すべきなのか」から一緒に考えます。

井階氏は、その方法としてCBPR(地域社会参加型研究)を紹介しました。

専門家が考えた課題が、必ずしも住民が本当に解決したい課題とは限りません。また、一つの問題を解決しても地域には次の課題が生まれます。だからこそ、地域のメンバー自身が問題を見つけ、考え、行動していける関係や仕組みをつくることが重要だといいます。

井階氏自身、こうした活動に踏み出した背景について「目の前の患者さんに向き合っているだけでは、地域全体、町全体は救えないと感じた」と振り返ります。福井県高浜町に赴任後、福井大学と高浜町の連携が始まり、大学教員として町の課題に取り組む役割を得たことも活動を後押ししたといいます。

【参加者の声】高校2年生「今までは医師という職業だけにフォーカスしていたけど」

講演後の質疑応答の様子
講演後の質疑応答では熱心に質問する様子が見られた

参加者にとっても、地域医療を改めて考える機会となりました。

医師を目指す高校2年生は、「今までは『医師という職業』だけにフォーカスして見てきましたが、人口が減っていく中で、地域との関わりも大切なのだと考え方が改まりました」と話しました。住民の好奇心を引き出しながら健康につなげていく工夫も印象に残ったといいます。

また、参加した看護師は「行政や病院から『これが必要』と考えるのではなく、そこにいる人たちと一緒に考えることが大事なのだと感じました」と振り返りました。

「医師」だけでなく、地域と関わる一人の生活者として

講演会場の様子

講演を通じて井階氏が最も伝えたかったことは、意外なほどシンプルです。

「まず自分が楽しく、みんなも楽しく。それが一番大事だと思っています。続かなければ仲間も増えません」。

地域を変えようと大きく構える必要はないといいます。井階氏は研修医らに対し、まずは一人の生活者としてまちに関心を持ち、地域で気になることと、自分自身がワクワクできることの接点を探すところから始めてほしいと呼びかけました。

地域の人とつながり、ともに考え、楽しみながら一歩を踏み出す。その小さな積み重ねが、地域医療、そしてまちを動かす力になっていきます。今回の公開講座は、これからの地域医療を担う参加者に、その可能性を伝える機会となりました。

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